消費税のルール変更と日本の今後

 2022年7月21日

1,突然の同期生の訃報

 そろそろ原稿を準備する時期と思いつつ、あまり何も思い浮かばず時間が過ぎていました。その中でもショックを感じたことがありましたが、そのことから触れるしかありません。新卒で入社した保険会社の同期入社の仲間が急逝したとの知らせでした。連絡を受け取ったのが7月1日でした。「昨日、滝井君が心筋梗塞で亡くなった」との知らせでした。その訃報を送ってくれたのも同期生の竹節君なのですが、昨年日本に戻った時に連絡をもらい面談しました。娘さんが結婚されて、台湾人の実業家とベトナムに住んでいるということでした。近くにいると思うので力になってほしいと頼まれました。その後、その娘さんとお子さんのベトナムへの入国手続きなどのお手伝いをしたのですが、6月19日に同業の日本企業からのご案内でお会いする機会がありました。

 折角なので写真を撮っていただき、私がFacebookに投稿しました。私と同期の竹節君の娘さんと写っている写真を中心に数枚をアップしました。その時に最初に滝井君がコメントを送ってくれました。滝井君のメッセージには、「時代は流れていきます。待ってはくれませんね。」と書かれていました。引き続いて会社の先輩でアクチュアリーの栗山さんから、「間違っていたらごめんなさい、会社の野球部OBの方、キャッチャーでは?」との投稿のすぐ後で、滝井君は「栗山さんお久しぶりです。お元気ですか?私がピッチャーでした。竹節君とはバッテリーでした。」「都市対抗野球で東京ドームでお会いして以来ですね。」栗山さんが「滝井君がプリンスホテルの松沼と投げ合っていたことを覚えています」と返すと、「そうでしたか懐かしいですね。でもその相手は東京ガスです」とのコメントが続いていました。会社の独身寮での不思議な思い出など懐かしい話で盛り上がっていました。同期でベトナムにも来てくれた山田君もメッセージを送ってくれました。同期生の娘さんと撮った写真に、同期や先輩がこんなにも反応をしてくれて嬉しく思いました。

 その10日後、竹節君から滝井君の訃報を聞きました。Facebookの投稿の後、「滝井君が電話をくれて懐かしい話をしたばかりなのに驚きました」と書かれていました。数か月前に神戸に住んでいるとのことで私の会社の親会社が神戸にあることから、今後帰国した時にぜひお会いしましょうとと話していたばかりでした。彼は報徳学園の出身で甲子園に出場し、明治大学でもピッチャーとして六大学野球で活躍し、会社に入社して私とは同じ研修所の同期生になりました。頑強な体の持ち主だったのですが早すぎる逝去でした。

 滝井君の言葉ではありませんが、「時代は流れ、待ってはくれない」ことは事実です。そんな最中に安倍晋三元首相への突然の襲撃の報に接しました。67歳の元首相はまだまだ活躍の途上での突然の急逝でした。人生がいつ終わるかもしれず、日々真剣に生きなければならないと強く感じた出来事がこの短期間に起こりました。私が強く思ったのが、誰でもが人生は終わるために生きているということ。終わることを考えて誰かにバトンを渡す必要があるということです。

2,高齢化社会の準備はその時から始まった

 ところで参議院の選挙戦が繰り広げられて、7月10日投開票がありましたが、最近の急激な物価高や消費税のことで論戦が繰り広げられていました。現在の日本は高齢社会であるこことは間違いありません。65歳になった私も高齢者の領域に入っています。参議院選挙が終わりましたが、来年に向けて消費税のルール変更が待ち構えていますが、まずはそのことに触れる前に消費税が導入されて時のことを触れておきましょう。ところで消費税はいつから始まったのでしょうか?

 日本の消費税は1989年4月1日に既存の贅沢品に対して個別に課税する物品税を廃止し、これに代わって消費税が導入されました。竹下登内閣の時でした。竹下元首相は大蔵大臣(現財務大臣)の期間も長かったので、大蔵省(現財務省)の意向はよくわかっていたのでしょう?庶民にとって税金をなるべく払いたくないのは、その当時も同じでした。竹下内閣で消費税を導入したのですが、国民の批判でデモが相次ぎ、竹下内閣は総辞職することになりました。まだ若かった国でしたから国民のパワーもあったのでしょう。

 国民が嫌がる増税をするためには3つの原則があると言います。

・取りやすいところからとる

・小さく生んで大きく育てる

・臨時増税といいながら恒久化する

の3つなのだそうです。当時は高齢化が進み始め社会保障の財源がなくなることを避けることと財政再建をすることで、子孫に借金を残さないためのものと説明されていました。

 最初は5%で検討されていた税率ですが、3%に引き下げて、所得税、法人税、相続税の軽減と抱き合わせにして増税の印象を薄めて国会で成立させました。ところが国民による反対のデモが全国に広がり、消費税の導入と引き換えに内閣が総辞職に追い込まれました。

 しかし,一旦制度が出来上がると、国民もその当時のエネルギーはなくなっています。「新しい税制は最初は悪税といわれるが、そのうちに慣れてくる」と竹下首相は退陣の時に語ったそうです。消費税導入時の国の借金は206兆とのことでしたが、2022年財務省の発表では初めて1000兆円を超えたと発表されています。年金の支払い時期の引き上げ、減額も続いています。給料はこの30年ほとんど増えてないのに、国の借金は5倍に増えています。何事もないことはありえないと思います。嫌な予感が付きまといます。

3,消費税率やルールの改定はいつまで続く

 それまでの主な税制は、所得税や法人税などたくさんお金を稼ぐ人から、たくさんの税を取る仕組みで直接税といわれるものでした。しかしその税は基本的に現役で働く世代から取る税制です。高齢社会では現役世代の比率が下がり、税収が減ることが想定されていました。現役世代からとる税金ばかりだと、これからやってくる高齢社会に対応できないと考えることはまっとうなことだと思います。そのため広く多くの人から税を徴収する方法を模索していました。そこで海外で使われていた付加価値税(VALUE ADDED TAX=VAT)に目を付けたのが大蔵省でした。物を買うときに税が発生する仕組みは間接税と言って、負担感も比較的少なく、現役世代以外からもとることができて、現役世代が少なくても税収が減らないでとることができます。

 高齢社会を見据えて大蔵省は消費税の導入に進み始めました。消費税導入の役割を担ったのが大蔵大臣を経験して首相になった竹下登でした。当初5%の税率で議論されていましたが、竹下内閣では3%に下げてスタートをされました。新しい税もいったん導入できれば、人々は徐々に慣れてより一層の増税も可能になるものです。最初からそれを狙っていたものと思います。

 税率も1997年5%に、2014年8%に、2019年10%になりましたが、食料品などは軽減税率の対象になりました。軽減税率などを作るのは批判をかわそうとする知恵なのでしょう。また、最初は売上が年間3000万円以下の事業者からは、消費税の納税を求めない仕組みでした。消費税分を受取ったとしても納税を求められないので、逆に事業者の利益にすることができました。その金額は2004年に1000万円以下に引き下げられました。そのように新しい税制を作って以降は、3つのポイントをうまく使っているのがわかります。

4,2023年10月導入のインボイス(適格請求書)制度とは?

 ところで皆さんは2023年10月からの消費税のルール変更のことをご存じでしょうか?ベトナムでは消費税のことを、付加価値税(VAT)といい、VAT Invoiceがないと損金にはできません。日本より前にベトナムでは導入されている制度です。また、昨年からは電子インボイスも導入されており、手書きの請求は通用しなくなりました。この点では日本より早く進んでいます。税を徴収する仕組みはそれぞれの国にとっては重要な考え方になります。

 インボイスとは一般に請求書のことを言いますが、国が認めた請求書による支払 いは消費税を控除できるが、それ以外は消費税が控除できないというルールで す。国が認める請求書にするためには登録番号を入手する必要がありますので登 録することが前提になります。それまでに、売り手側は「適格請求書発行事業者」になっていなければなりません。適格請求書によれば、仕入れの時の消費税 と販売の時の消費税が把握できます。そのため正確に消費税額が把握できるので す。適格請求書発行事業者でなければ、仕入れの金額を損金処理できなくなると いうわけでは無いので、通常の事業者は適格請求書を発行できない事業者から購 入しなくなるということはありません。

 現在の消費税のルールでは、小規模事業者やフリーランスの人で年間の売り上げが1000万円以下の場合は消費税の支払いは求められませんでした。しかし、消費税が発生していても納めなくていい人がいることが不公平という声もあり、納税できる方法が議論されていました。それがインボイス制度です。通常の企業は仕入れの場合に業者に消費税を加えて支払い、それを顧客に販売するときに消費税をつけて回収します。仕入れで支払った消費税と販売した時の消費税の差額を納税する仕組みです。

 今までは売り上げ1000万以下の事業者には消費税の支払いを免除されていました。結果としてお客から受け取った消費税分は利益とすることができました。これを益税というようです。消費税増税への反対が根強い小規模事業者への配慮でもありました。小規模事業者への配慮、消費税増税時の方便で作られた制度でした。貧しいところからとりすぎない、あるいは一部恩恵を与える意味合いもあり、不満を吸収するのが目的でした。以前は売り上げ3000万以下でも認められていましたが、2004年から1000万円以下になりましたが、来年10月にはほぼそんな恩恵はなくなります。そのようなルール変更をされると、これらの人には実質的に増税になる仕組みです。

5,増税の方向性しかない日本経済の実情

 消費税が導入されて以降、優遇されていたことが廃止され高い税率になってきたことを見てきました。現在の日本では標準税率が10%、軽減税率が8%となっています。ちなみにベトナムでは通常10%ですが、コロナの影響を考慮して、2022年2月~12月までは、標準の取引は8%に時限的に軽減されています。これは例外的な取り扱いです。

 ところで世界の消費税(多くは付加価値税と呼ぶ)はどうなっているのでしょうか?2020年の時点でハンガリーが27%だそうです。クロアチア、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーが25%、アイスランド、ギリシャ、フィンランドが24%、アイルランド、ポーランド、ポルトガルが23%となっています。EU加盟国は基本法令によって原則15%以上にするように義務付けられています。ヨーロッパ各国ではこの付加価値税を共通基盤として使ていることから軒並みに高くなっているようです。

 ヨーロッパでは軒並みに20%以上の税率になっていることや日本の国の借金が消費税の制度ができた当時に比べて5倍に増えていることを踏まえると、消費税率が今後増えないという保証は全くないことがわかります。年金の支給年齢は下がり、消費税は上がるかもしれない中で、高齢者もなるべく現役を長く続けられるようにする必要があります。

 日本で今後起こってくるだろうことを予感させることがあります。私がベトナムで親しくお付き合いしている方の中に、地方銀行からベトナムの銀行などに出向している駐在員の方がたくさんいます。地方銀行では低金利政策と人口減少、高齢化によって収益確保が困難になっています。そのために取引先などに海外進出のコンサルティングをして利益を確保しようという動きが強くなっています。今までのビジネスモデルではやっていけなくなっているのです。

 衝撃的なのが、「金融仲介の改善に向けた検討会議(2018年4月)」の中にある金融庁の資料です。そこでは「各都道府県における地域銀行の本業での競争可能性」という資料があります。2行での競争が可能な地域としては、宮城、埼玉、千葉、神奈川、静岡、愛知、大阪、広島、福岡、鹿児島の10府県、1行なら採算が取れるのが、北海道、岩手、山形、福島、茨城、東京、新潟、長野、滋賀、京都、兵庫、愛媛、熊本、沖縄の14都道府県、残りの23県は単独1行でも採算が取れないとされています。東京が1行のみ採算が取れると評価されるのは、メガバンクが圧倒しているからでしょう。1行でも採算が取れないとなると近隣の県の銀行と合併することになるのでしょうか?あるいは本業以外の収益源を見つけることになるのでしょうか?

 消費税の話をしてきましたが、年々経済環境が厳しくなっていく中で、地域経済を支えてきた地域の金融機関も存続の危機に瀕しています。高度成長期には戻れない日本社会は、今後どのような方向性が必要なのでしょうか?高齢者も健康に気をつけて死ぬまで働こうという覚悟が必要な時代かもしれません。長く社会にかかわるためには、友人との付き合いもますます必要になるでしょう。そのことが本来の人の幸せなのかもしれません。経済的には厳しくても人との付き合いが暖かければ、不幸せではないですね。地域経済は厳しさを増していますが、それでも形を変えながら、若い人にバトンを渡していくことの意味を見出した人は、それはそれで幸せを感じることができるでしょう。

以上

投稿者プロフィール

西田 俊哉
西田 俊哉
アイクラフトJPNベトナム株式会社・代表取締役社長。
大手生命保険会社に23年の勤務を経て、2005年に仲間とベンチャーキャピタル・IPO支援事業の会社を創業し、2007年に初渡越。現在は会社設立、市場調査、不動産仲介、会計・税務支援などを展開。