コロナから円安へ 環境変化を明るく捉える

2022年10月15日

1,コロナ禍3年間の実験的経験

 新型コロナウィルス感染の影響が出てから3年が経とうとしています。この間に私のベトナムでの事業環境が大幅に変化し、柔軟に変化をするしかない状況になりました。日本の持続化給付金のような政府からの救済は得られない中で、事業自体を変えざるを得ませんでした。

 2020年4月からはリストラを検討し始めました。また、労働法を調べて社員を休業させる方法はないかなども検討しました。その他一部の事業の他社への売却、従業員数を削減し安いオフィスへの移転、また、私も含めて賃金の引き下げの検討と調査を行いながらどうするかを模索していました。

 長年協力させていただいている保険会社のベトナムビジネス支援費を1年分お支払いいただけるのが5月でしたので、数か月は生きながらえることはできます。しかし、そのあとは何もしなければ、会社を清算か休眠せざるを得ないと覚悟をしていました。

 その最中、ベトナム側で海外からの入国者を認めようとの動きが出てきました。ベトナム政府も外資系企業がビジネスできないことの損失を考慮したのでしょう。最初は政府間交渉の結果始まったのが、特別ルール適用の便でしたが、民間企業が関わることはできませんでした。ところが2020年8月からは、日本からベトナムへの入国は、ANAとJALの特別便で入国できる運用に変わりました。各企業がベトナムの役所に申請を出して、承認された人が特別便に搭乗できるルールで運用が開始されました。ベトナムの役所に手続する仕事が多くなっていた弊社は、スタッフに特別便での入国はどのような方法でできるのかを調べさせました。

 当初スタッフは「手続きが煩雑でとても大変です。私たちには難しいです」と回答をしていました。ただ、仕事も少ないので、「どこがどう難しいのか調べてみよう」として情報収集を続けました。詳しく調べて流れが確認できると、「難しいけれどできるかもしれない」に変わっていきました。できるかもしれないとなると「やってみよう」となります。やってみるうちに経験の蓄積ができて、手続きがスムーズになりました。旅行会社によってはホーチミン市以外の申請の代行を弊社に依頼されることもありました。この外国人の入国支援ビジネスのおかげで、当初考えていたリストラは、給与削減、私が30%、ベトナム人スタッフが10%の削減3か月間行っただけで済みました。

 このビジネスを主に取り組んだのは旅行会社ですが、隔離ホテル・航空料金セットで販売していました。弊社は特別便と隔離ホテルは情報提供だけにして、手続きの代行に徹しました。手続きの代行のみですので、他よりは安くサービス提供ができました。特別便の制度がなくなっても、日本に帰国する際にPCR検査が必要な時期は、陽性になる方もいました。陽性になってしまい、滞在期限を過ぎた人の出国の手続き支援もしました。現在はPCR検査は求められなくなり、それもほぼ終了しました。

 実はこのコロナ禍の経験が弊社の財産だと思えるようになりました。今となれば特別便はなく定期便になり、日本人がベトナムに入国する制限は撤廃されましたが。経験のないことでもビジネスにできる可能性があることを学ぶことができました。

2,アフターコロナ 元には戻らないとの覚悟

 コロナが終われば、以前のように日本企業のベトナム進出ブームになるかと思っていました。ところが急激な円安はそれを許しません。日本企業のベトナム進出の凍結の話が多く聞くようになりました。そのためまた新しい事業の方向性を検討しなければならなくなりました。

 今までのコロナ禍の3年近くにわたり、経営の危機を何とか緊急の事業によって切り抜けたことをお話しました。ベトナムではまだコロナが終結したとは言えませんが、コロナ対策はほぼ終結したと言っていい状況になりました。コロナ前の状況に戻ることを期待した私ですが、最近では必ずしも元には戻らないことを覚悟しようと思うようになりました。

 その最も大きい要因は、急激な円安になっていることです。最近のドル・円相場を簡単に示しましょう。東京・銀行間直物平均の数字です。

 2020年度 1USD=106.0円

 2021年度 1USD=112.4円

 2022年1月 1USD=114.83円

 2022年2月 1USD=115.20円

 2022年3月 1USD=118.51円

 2022年4月 1USD=126.04円

 2022年5月 1USD=128.78円

 2022年6月 1USD=133.86円

 2022年7月 1USD=136.63円

 2022年8月 1USD=135.24円

 2022年9月 1USD=143.14円

 2020年の円相場に比べて、35%以上も下がっていることになります。海外で投資をしようとすると逆に以前に比べて35%も値上がりすることになります。この原稿は10月に書いていますが、10月14日は148円近くにもなろうとしています。

 私の友人に話を聞くIT企業のオフショア開発をしている企業は概ね円建てで請求をしているようです。急激な円安で実質30%以上の値引きをしているような状態になっていると言います。また、技能実習生を日本に送り出している送り出し機関では、円安日本に行く人材が集まらなくなっていると聞いています。

 円安対策として私なりに想定することがあります。海外での投資はしばらく減っていくことでしょう。また、海外で事業をしている日本企業が海外子会社への仕送りはかなり厳しくなります。そのため駐在員は減ること、海外事業の一時的縮小の動きが出てくるのではと思っています。逆に海外での売り上げが中心の企業は、外貨での取引になるので為替差益が出ますから日本の親会社への配当が高くなります。

 私たちのビジネスを作っていくためには、海外で順調に事業が継続できている企業のニーズを取り込むビジネス展開が必要だと考えています。コロナ後は円安による環境変化をいかに乗り切るか、再び知恵を絞るしかないようです。

 長期間のコロナ禍で人々の生活様式が変わりました。集団で飲食する機会も減りました。いまだに在宅勤務を続けている企業もあるようです。人が集まっていた飲食店が元の状態に戻るのはかなり時間を要することでしょう。コロナのせいで人々の生活様式も変わり、以前のような事業が通用しなくなっています。

3,日本から見て円安をチャンスにする方法

 このような円安となれば、この円安を逆手に取った経済対策をとるしかないと思います。円安になることでのマイナスはたくさんあります。資源や食料を輸入に頼っている日本では物価が上昇しています。しかし、日本で物を買う場合、2年前よりも為替が30%も安くなっているのです。円安前でさえ日本は価格の安い国として認知されるようになっていましたが、さらに加速しています。

 そのことから外国人旅行者のインバウンド客を取り込むことで、旅行会社、ホテル、小売業(商品を納入している製造業者も同時に利益が上がります)は、旅行者のおかげで儲かるようになります。中国だけはいまだに「ゼロコロナ政策」を続けているので、中国人観光客だけは呼び込めませんが、そのほかはこぞって日本に来てくれるかもしれません。日本のホテルも飲食費もお土産品も諸外国に比べて圧倒的に安く感じることでしょう。10月11日から外国人の入国を大幅に緩和しました。諸外国に比べて対応が遅いようには感じますが、円安日本には外国人の関心が急速に高まるでしょう。

 それ以外に円安によって有利になる代表格は海外への輸出です。製造業は部品の調達など近年は海外に頼っているので、以前ほどの円安効果は少ないとみられますが、品質の高い日本製品が安くなれば買いたい人も増えるでしょう。特にベトナムのレストラン事情を見ると、ベトナム資本が高級すし店のチェーン展開をしているケースがあります。日本から航空便の直輸入の農水産物は高級ですが、以前より安くなれば買いたいという人はたくさんいます。ベトナム人の富裕層はこぞって一番高いものを求めますが、以前より相当安いことが分かれば需要は拡大することでしょう。

 最後にもう一つ上げれば製造業の国内回帰です。部品を日本で作れば、安く調達できるようになりました。他の国は賃金の伸び率が高いですが日本は賃金も上がっていませんから、品質が高ければ海外から調達する必要はありません。製造業の日本回帰は現実のものとなっていると思います。例えば日本から半導体のメーカーは消えましたが、台湾企業で世界有数のメーカーTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県菊陽町に工場を建設し2024年に生産開始の予定です。このニュースは、円安日本が今後どの方向に進むかを物語っています。

4,「エブリシングバブルの崩壊」を読んで

 コロナ禍の中で日本に帰るのも少なくなり、日本の書籍も読むことが少なくなりました。友人に勧められてアマゾンのKINDLEという電子書籍の端末を買いました。最近はそれで読書をしています。その中で最近読んだ本の一つを紹介しましょう。著者のエミン・ユルマズはトルコ人ですが、東京大学工学部で生命工学の修士を取得し、野村證券に勤務していた日本をよく知る人物です。

 内容を簡単に紹介しましょう。コロナ禍の世界では空前の金融緩和が行われて3年近くたちました。その金融緩和がもたらしたのはバブル経済です。「エブリシングバブル」とは米国のすべての資産やセクターがバブルになっているという意味です。米国人は金融緩和の中でお金がある人は株などのアセットに投資し、金のない人はクレジットカードを使ってどんどん購買する社会ですからバブルは際限なく拡大しています。

 そのバブル状態の中で労働力不足や調達コストの高騰などに起因してインフレが加速しています。特に米国は8%台のインフレが続いています。そのためFRB(米国連邦準備理事会)は3月から利上げをしています。この利上げは急激なインフレを抑えるために行っています。その利上げの影響で円安が進行しています。

 キャリーバブルとキャリークラッシュという言葉も出てきます。キャリーバブルとは低金利でお金を借り株式投資をすることを指しています。それにより米国株は株価が大幅に上昇しました。その分だけクラッシュ(崩壊)も大きいことを伝えています。

 著者はその中では日本を評価しています。この世界のインフレの中では、米国株の失速が起こることが述べられていますが、今まで関心を持たれなかった日本株はバブルになっていないと言います。インフレでほかの資産が価値を減らすのに対して、インフレに対応でき資産価値を減らさないのが株式だと評価しています。特に日本株は資産防衛の対象になるとしています。

 中国の習近平ワールドのバブル崩壊が起こっていることは、恒大集団という不動産集団の実質破綻が物語っていると言います。ロシアのウクライナ侵略は世界の地政学的変化が起こっており、グローバル経済の方向性が変わりました。そして、米国は近々リセッション(景気後退)がやってくること、中国は長期低迷の可能性があること、その中で投資先としては長年低成長でインフレも起きなかった日本に価値があること。ただ、中国や米国が停滞したら、日本にも影響はあるでしょう。米国も不況になるとしたら、世界全体が不況になるでしょう。しかし、その中では日本は、バルブが小さい分だけまだましと私は捕らえました。日本の将来に悲観的な見解が多い中で珍しく日本の将来を明るくとらえている著作でした。

5,日本の将来像を明るく語ろう

 日本の将来に関しては悲観的な予想が多いのですが、楽観的な予想も存在します。人口減少、少子高齢化、GDPの順位下降、年金削減などなど。今までと同じようにいかないことが分かれば、変化を求められます。ダーウィンが言ったように、「強いものや賢いものが生き残るのではなく、変化できるものが生き残る」ことを考えれば、日本は変化せざるを得ない国です。

 日本人の大切なことは、将来を暗いことばかり考えないことです。そのためには外国人と触れることも必要です。外国人は明るくものを考える人が多いです。私が日々接しているベトナム人たちは、自分たちの将来は明るいと信じています。私から見ると必ずしもそうとは言えないと思いますが、そう信じる事はいいことです。人は思った方向に進んでいけるものです。

 高齢化、少子化は生涯現役であることを求める社会です。年をとっても努力を続けられることは幸せなことだと思います。ただ、一つの会社にいやいやしがみついている働き方は変わります。老齢になった時に違うことができるチャンスが与えられます。自分ができることを見つけてその役割を果たす社会になるだろうと思います。

 また、AI化、自動化が進めば、単純な作業は機械・装置に任せればいい社会になります。人生経験の豊富な人は、人生経験を生かせる仕事に就くことになります。製造業の日本回帰には、以前モノづくりをした職人の経験が必要です。外国人観光者が多くなってくるとおもてなしの精神を持った人が必要になります。外国語はスマホが通訳してくれます。経験がなくても怖がることはありません。自分の能力の不足は装置が補ってくれる時代になっています。新しいことにチャレンジする努力は実は楽しいものです。私もまさか電子書籍を読むようになるとは思っていませんでしたが、今では私の貴重な財産になりました。

以上

投稿者プロフィール

西田 俊哉
西田 俊哉
アイクラフトJPNベトナム株式会社・代表取締役社長。
大手生命保険会社に23年の勤務を経て、2005年に仲間とベンチャーキャピタル・IPO支援事業の会社を創業し、2007年に初渡越。現在は会社設立、市場調査、不動産仲介、会計・税務支援などを展開。