2023年新年を過ごす日本で考える1年の展望

2023年1月7日

1,日本の新年で感じる「冬はつとめて」の意味

 コロナ禍では日本への帰国が通常のパターンでの帰国ができなくなりました。前回は2021年8月27日に帰国し、10月24日にベトナムに戻りました。長期間の帰国でしたが、そのうち日本についてから二週間は自宅待機、外出もほとんどせず自粛し、ベトナムに戻ってからは一週間のホテル完全隔離でした。今回はコロナ禍の後に隔離がない帰国でしたが、Visit Japan Webへの登録が必要で高齢者には難易度が高い作業です。

 今年の帰国はコロナ禍の間にベトナムでは外国人の在留資格の基準が変わりました。今まで私は投資家として在留許可を取得していたのですが、投資家としての在留許可は30億VND(日本円にすると1500万円程度)の出資がないと投資家とは認められなくなりました。そのため今回は労働許可取得後の滞在許可を取得するために、この時期での帰国になりました。意外だったのは12月31日の日本での帰国と1月22日(この日は旧正月の元旦)の帰国が安かったのでこの時期を選びました。航空券代はコロナ前の2倍以上になっているので、なるべく安いチケットを選ぶ努力をせざるを得ません。JAL便を利用したのでしたが、搭乗していた人は外国人が多かったです。羽田からほかの国にトランジットする外国人も多かったようです。

 ベトナム・ホーチミン市は、毎日が30度前後の日々が続きます。乾季と雨季が半年毎に入れ替わるので、湿度は違いますが気温の変化はほとんどありません。寒いと思う体験は全くありません。四季がないこともあり、生活上の緊張感はありません。生活するのは楽なのですが、季節を感じない、変化を感じない緩慢な生活になります。

ところが日本に帰るとベトナムとは違います。寒いのは確かにつらいのですが、結構すぐになれます。同時に寒さも必要だと感じることもあります。人間の身体は調整力があるのです。それでも日本に帰ってきて思うのは、寒さもいいものだなと感じます。朝の寒さは動き出す意思が必要です。人を凛とした気持ちにさせる力があります。清少納言が、「枕草子」で「冬はつとめて」と推奨しています。枕草子の冒頭にある文章ですが、春夏秋冬においてどの時間帯がいいかという清少納言の好みを語っています。直訳すると、「冬は早朝がいい」という意味です。霜が降ったり、氷が張ったりするのがいいと言っています。炭をおこし、寒さに耐えるための行動が人の基本です。寒い早朝から日常の活動を開始することは、意志がないと続きません。意志の強い女性らしい好みでしょうか。逆に昼暖かくなって炭が白くなっていく様子を「わろし」と言っています。

「冬はつとめて」の中で、努力してきた日本人がいたから、今の日本につながっているように思います。寒さを乗越える意思が歴史を作ってきたのかもしれません。この冬の過ごし方こそが、日本人の精神性を築いてきたような気がします。枕草子ではその他の季節を次のように評価しています。「春はあけぼの」、「夏は夜」、「秋は夕暮れ」清少納言の価値観とは違う人もいるとは思いますが、四季がない国にいると四季が文化を育てていることを思います。

2,日本ではウサギ年だがベトナムはネコ年

 ところで東南アジアでは干支の慣習があります。中華文化圏の影響がある東南アジアは干支が使われています。私が駐在しているベトナムでも干支は庶民に定着しています。今年はウサギ年ですが、ベトナムではネコ年になります。日本と同様優しさを表している年のように受け止められています。

 ところで干支とは、時間と方角を著すための重要な概念になった考え方ですが、自然界の説明をするための考え方に由来しています。干支の概念は中国の歴史上最初に登場する殷の時代から存在するようです。中国文明にとって重要な概念です。ただ干支(えと)と十干(じゅっかん)の組み合わせで60通りの組み合わせになります。それが還暦となり、人間の人生を著すような考え方もあります。

 十干には10種類があります。甲(こう)、乙(おつ)、丙(へい)、丁(てい)、戊(ぼ)、己(き)、庚(こう)、辛(しん)、壬(じん)、癸(き)の10通りです。それと十二支の子(ね)、丑(うし)、寅(とら)、卯(う)、辰(たつ)、巳(み),午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(とり)、戌(いぬ)、亥(い)との組み合わせであり、60通りで一巡する仕組みになっています。しかし、この組み合わせの読み方は陰陽五行である木、火、金、土、水の読み方を使っています。その文字は太陽系の惑星から取られていると考えてください。動物と宇宙の組み合わせで時間や方法を考えるのが日本をはじめ東アジア、東南アジアの特徴です

 甲乙が木で甲が兄(え)で乙が弟(と)となり、「きのえ」「きのと」と読みます。以下、丙丁では「ひのえ」「ひのと」、戊己では「つちのえ」「つちのと」、庚辛では「かのえ」「かのと」、壬癸では「みずのえ」「みずのと」読みます。それに十二支と組み合わせて「きのえね」「きのとのうし」「ひのえとら」「ひのとのう」のように続いていきます。有名なのは丙午(ひのえうま)で、この年の子供の出産が極端に少なくなっています。この年に生まれた女性は男性を食べてしまうという迷信が影響しているようです。

 参考にお伝えしておくと、ベトナムが日本と違うのは、ウサギが猫以外に、牛が水牛、ひつじがやぎ、いのししがブタという違いがあり、金のぶたの年には出産が急に増えます。子孫繁栄、恋愛成就の縁起のいい年と信じられています。

3,2023年の日本が考えておくべき農業の大切さ

 そして今年2023年は癸卯(みずのと・う)の年になります。この年の意味は今までの努力が花開き、実り始めるという意味があるようです。しかし、今年の経済は簡単には花が開くような展開にはならないようです。この2~3年の出来事が影響を与えています。

 第一はコロナ禍です。全世界の人たちの生活様式が変わりました。サプライチェーンの混乱、物流の混乱、在宅勤務の増加、労働の選択の変化など3年前とは違う動きになっています。第二がロシア、ウクライナの戦争の影響です。ロシアからの資源の供給やロシア・ウクライナからの食料や飼料の調達に影響が出ています。第三に地球温暖化による自然環境変化です。世界各地で異常気象の影響で災害や干ばつなどの影響が出ています。特に農業分野への影響が大きくなっています。

 それらの影響によって世界ではインフレが進んでいます。供給が不足するためのインフレです。必要なものが今までのような価格では手に入らない時代になったのです。世界ではインフレを抑えるために金利を上げて経済の鎮静化を進めています。ただ日本では膨大な日銀の国債残高、借金のこともあり、金利を上げることができません。そのため円安により輸入品目が高騰しています。安い日本でも物価が上がり始めています。

 食糧自給率38%の国が日本です。これから地球上で食料事情は改善することは見込めません。しかし、2022年世界の人口は80億人に達したとみられています。年々地球環境の変化は進んでいます。そのうえで人口も増えてますます地球環境へ負荷がかかっています。そして、経済の低迷や貧しさが紛争に発展します。経済のグローバル化からブロック化に進み始めているともいわれます。

 ただ私が重要だと思うのは食糧問題です。日本がとるべき方向は明確ではないかと思います。食糧自給率が38%の国ですから、日本人の身体のエネルギーは外国に支えられています。それをもう少し自国で支えるようにすべきだと思います。日本の国力が落ちていくと輸入も厳しくなります。高い金額を出してくれる国に輸出先は変わっていきます。

 日本の農業を変える方法は、産業として農業が魅力的なものにすることです。社会的役割の大きな産業であること、同時に収益面でも事業としての魅力を感じられる産業にすることしかないと思います。今日本の大規模農業は技能実習生の労働力に支えられていますが、これからもその構図が継続されるとは限りません。変化の兆しは表れています。

 ただ、日本で農業が衰退していった過程は、補助金などに依存し改革には後ろ向きの政策に終始したからだと思います。今後世界は食糧が大きな問題になっていくと思います。海外に輸出ができる日本の農業を育てていくことが大切です。最近取り上げられるようになった昆虫食、雑草食などは日本の開発能力であれば可能のように思います。信州で育った私ですが、幼少期に昆虫はたくさん食べました。イナゴの佃煮、蜂の子の甘露煮、伊那谷では天竜川の虫ザザ虫を食用にしていました。たんぱく源が不足していた山国の生活の知恵でしょう。今でも思い出しますが結構おいしいものです。新しい食品の開発は喫緊の課題です。

4,世界のインフレと経済低迷の原因は何か

 2023年は景気が減速するだろうという経済評論家が増えています。実際はどうでしょうか?私のいるベトナムでは欧米向けの消費財である衣料品や靴の製造事業者が、工場の操業を停止しているとの話を昨年の後半から聞くようになりました。欧米で消費が低迷しているので、生産をしても買ってもらえません。仕方なく1月は太陽暦の正月から、太陰暦の正月まで約1か月の休暇を労働者に与えたという話も出ていました。

 欧米の経済の低迷は急激なインフレ(物価高)が起こっていることが要因です。そのため各国の中央銀行は物価を抑制するために利上げに動いています。では、なぜ物価高が起こってしまうのでしょうか?理由は複合的です。しかし、食料問題と同様な理由が経済停滞の原因でもあります。

第一にはコロナ禍が影響しています。在宅勤務が推奨され、逆にエッセンシャルワーカーの労働が過酷で敬遠されるようになりました。特に物流など深刻な人手不足になり、大幅な賃金の上昇と世界的な供給の制約を受けるようになりました。物流の流れが停滞してしまいました。それらのコストが上昇したことから、価格高騰を商品価格に転嫁しなければならなくなりました。

 第二にロシアのウクライナ侵攻です。経済制裁とロシアの対抗措置によりサプライチェーンが寸断され、ヨーロッパを中心にガス・石油の供給に支障をきたすことになりました。欧州では深刻な電力不足に見舞われています。欧州の経済低迷の大きな要因になっています。

 第三に米中対立と東西の分断です。米中対立は米国と同盟関係にある日本の産業界が今まで通り、中国のサプライチェーンを利用できなくなっています。その世界の政治経済の中で、日本は防衛費の拡大が論議されています。また、日銀の保有する国債残高が膨大になりすぎて、欧米と歩調を合わせた利上げができず、円安が拡大したことで輸入品の価格の急上昇に見舞われています。

 それらの変化の中でもし仮に政策の転換を失敗するとさらに厳しい世界の状況になります。利上げしてもインフレを抑制できなければ、さらなる利上げが経済をさらに減速させます。利上げとはインフレを抑えるためにお金の流れを抑制する政策です。エネルギー供給の不足から、従来の化石燃料に依存するとさらなる地球温暖化を加速させます。ロシア、ウクライナの戦争が長引くとお互い消耗戦になり経済への影響は恒常化され、さらに力による現状変更に走る国も出てくるかもしれません。それは第三次世界大戦の引き金にもなりえます。そのように危機に満ちているのが2023年という年です。

 日本では物価上昇を今までのような価格転嫁をしないで対処する場合、企業業績が低迷、賃上げも進まず、一層の消費の停滞で景気を後退させてしまいます。2023年は今あげたネガティブな予想にならないように政策の転換が必要になっていると思います。

5,2023年を明るい年にするために必要な転換とは

日本でいえばまずは賃上げの方向に行けるかどうかです。物価が上がって

も賃金が上がらないと、ますます消費は落ちて経済の低迷が長期化します。賃上げに関して大企業は可能と思いますが、中小企業まで波及できるかどうかが重要です。中小企業まで拡げることができてば、日本はデフレ脱却して再び経済成長できる国になるでしょう。しかし、中小企業が賃上げできないと格差が拡大して消費は低迷し貧困層がますます増えてしまいます。これも大企業が下請けいじめをしない仕組みが大事です。

 世界ではやはりロシア・ウクライナ戦争がいつ終わるかがカギになると思います。早期に集結すれば、元の世界の秩序に修正されていくと思いますが、長期化すると経済停滞の要因が温存されていきます。また、ロシアのウクライナの領土の支配が固定化されると、力による現状変更の動きが拡大することで、中国の存在は不気味なものになるでしょう。その点ではロシア、ウクライナがどこかで妥協点を見出して、戦争を終結させることが必要かと思いますが、無人機やドローンでの生活インフラの破壊が進んでいる現状から考えると、長期化の危険性があります。

 ニュースを見ていると、米国議会の分断(下院議長の指名問題)、北朝鮮のミサイル問題、中国の新型コロナ対策の問題など課題は山積しています。これらの問題を含めて政府がどう動くかが重要になります。しばらく補欠選挙以外で国政選挙がない年が続きますが、政治も変わらなくてはならない時期がやってきていると思います。

 久しぶりに新年の日本に戻り、1月4日からは企業訪問を始めました。12月中にアポを取っていたのですが、思いのほか順調にアポは取れました。コロナ禍で脱対面化やウェブ会議が定着していますが、対面での訪問や面談は近い関係にする力があることを感じました。交通費も使うし、訪問時の簡単なお土産を用意することもあり、お金と動力はかかります。ただ、そのような無駄と思えるエネルギーを使わないと浅い人間関係になってしまうと思います。

 「不要不急」という言葉が定着しました。その中でリモート会議や非接触のコミュニケーションが定着しました。そのような関係性では生身の人間に接している感覚が希薄になるのではないでしょうか?ドローンや無人機の戦争では加害者側が殺人をしている感覚が希薄になっていることでしょう。そろそろコロナ禍の生活様式の見直しが必要な時期のような気がします。

 2023年は癸卯(みずのと・う)の年となり、意味は今までの努力が花開き、実り始めるという意味があるとの話をしましたが、まずは変化するための努力をしなければならない年になるように思います。

以上

投稿者プロフィール

西田 俊哉
西田 俊哉
アイクラフトJPNベトナム株式会社・代表取締役社長。
大手生命保険会社に23年の勤務を経て、2005年に仲間とベンチャーキャピタル・IPO支援事業の会社を創業し、2007年に初渡越。現在は会社設立、市場調査、不動産仲介、会計・税務支援などを展開。