米中争覇時代と民主主義の揺り戻し

1, G2米中争覇の時代を考える

最近、G7でもG20でもなくG2という言葉が使われていることが増えていることを感じます。G2とは米国と中国を意味しています。覇権を争う2大国のことを指していますが、最近の評論では時々使われるようになりました。米中二極体制のことを言うのですが、米中争覇という言葉もあり、超大国の覇権争いを表すこともあります。

米国も南北アメリカ大陸や西半球にあたるとしてグリーンランドの領有を主張するようになってきていますが、ヨーロッパやアジアは近隣の国どうして対応せよというように変わり始めています。一方中国は南シナ海、カンボジア、ミャンマー、ラオスという東南アジアの発展途上国にも強い影響力を持っています。

「台湾有事」という言葉がありますが、そのような緊張になった時に米国が中国に制裁をしてくるのでしょうか?米国も中国とガチで戦うことのメリットがあればするかもしれませんが、最近の傾向で見えることがあります。そのような事態になると米国は中国とのディール(取引)によって、米国にも中国にもマイナスにならない取引を仕掛けるではないかと思うようになりました。

このことを考えると日本の立場は、よりしたたかな戦略をとることだと思います。日本はまだ東アジアの先進国ですので、中国にとっても必要性はあるでしょう。日本も上手に利益をもたらす戦略的関係構築が必要となってきたように思います。その点で私が今生活しているベトナムは、大国ではありませんが参考になる国です。ベトナムの国際戦略はしたたかです。資本主義国、社会主義国に限らず重要性が増していると判断できる国とは、包括的戦略的パートナーシップを締結しており、近年締結国が急激に増えています。

ベトナムは外交上の最高位の関係を築く国とは、2国間同士で「包括的戦略的パートナーシップ」を締結しています。近年その数が飛躍的に増加しています。今までの締結した順番で上げていきましょう。ベトナムがどのような順番で重要な国との関係を構築しようと考えているかがわかります。政治的な関係性、地政学的な関係性、貿易や経済的なつながりで重要な関係性など戦略的な対応が目立ちます。

中国(2008年5月)、ロシア(2012年7月)、インド(2016年9月)、韓国(2022年12月)、米国(2023年9月)、日本(2023年11月)、オーストラリア(2024年3月)、フランス(2024年10月)、マレーシア(2024年11月)、ニュージーランド(2025年2月)、インドネシア(2025年3月)、シンガポール(2025年3月)、タイ(2025年5月)と締結しています。2025年10月に英国、フィンランド、ブルガリアと締結したと発表されました。英国と締結したことで国連常任理事国とはすべて締結したことになります。また、南アフリカ共和国の名前も挙がっています。ベトナムは世界情勢を見て、バランス外交に心がけている国と言えるでしょう。

2, ベトナム共産党第14回全国大会の開催

ベトナムの多方面外交のしたたか戦略の話になりましたが、そのようなベトナムにとって重要な政治イベントがあります。日本とは異なる体制にあるベトナムですので、知っていただくために簡単にベトナム共産党全国大会について触れましょう。この大会は5年ごとに開催されて、党の人事や国の方向性を決める重要な会議です。その大会が2026年1月20日に開幕されました。

社会主義国であるベトナムは、党が国家を指導するという立場になっていることもあり、共産党大会が国の方向性を決める場です。この大会には560万人の党員を代表して1586人が出席します。大会のテーマは2030年までの国家発展目標達成に向け団結し、戦略的自立と自信をもって前進して、平和、独立、民主、繁栄、文明、幸福を実現させ社会主義への道を堅実に進むための大会とされています。

ベトナムは2026年から次の党大会の2031年まで毎年10%の経済成長を目指す「国民飛躍の時代」との表現を使っています。その場で中央委員200名を決め、その中で政治局員20名を選任し国の中枢を担う人事を決定します。また、国の重要政策の方向性を決めます。今回の党大会ではその目標に向けて以下の5つの指導原則を提示しています。

・党の指導とドイモイ(刷新)路線の堅持

・経済社会発展と環境保護の一体推進、党建設、国防・安全保障の強化

・愛国心と発展に対する志の喚起

・制度整備とボトルネック解消、デジタル・グリーン・エネルギー転換の同時実施

・党と政治体制の全面的な強化と権力の監視、汚職防止の強化

ベトナムの政治的地位の序列は、「四柱(しちゅう)」と言われており、トップが共産党書記長、第二位が国家主席、第三位が首相、第四位が国会議長とされています。今回の共産党大会では、共産党書記長のトー・ラム氏が再任されました。私は08年にベトナムに来てから4回目の全国党大会ですが、初めの頃は関心もありませんでしたが、2021年の党大会から多少関心を持つようになりました。2021年はコロナ禍の党大会でしたが、その当時に選出された四柱の方は全員が変わっています。変化も著しいベトナムです。

3, ポピュリズム政治の行方

ベトナムの特殊な政治のことを触れましたが、一方で日本では衆議院が解散し選挙戦に突入しています。各党などの主張を見ていると明確なメッセージやわかりやすい表現を使った方が、大衆受けしやすくなっていることを感じます。今回日本の政治状況の特徴は物価高に悲鳴を上げている国民が多数いることです。インフレ傾向の時の株高は当然の帰結と思いますが、円安が徐々に定着し、より一層安くなっています。そのような状況ではインフレを抑えるすべはありません。

選挙公約ではほぼすべての政党が消費税減税など、ある面でバラマキ政策を提案しています。そのバラマキ政策が日本の財政の不健全化が想定され、より一層の円安と聞き起こしています。さらに危険性を感じるのは、日本国債が売れなくなることによる長期金利が上昇です。日本の財政が危ないと感じる今日この頃です。住宅ローンを抱えている人などは、借金の金利も上昇しますので返済額も大きくなります。株式など金融資産を保有できる人に対して、インフレで生活が厳しくなる中間層以下の人たちの没落が加速する事態になるのでしょうか?

中間層の没落が民主主義の衰退に拍車をかけることがあります。米国を例に挙げるまでもないでしょう。米国でトランプ大統領が当選した背景には、ラストベルト(錆びついた工業地帯)で忘れ去られた白人労働者の支持がトランプ氏に向かったことがきっかけです。トランプ氏はその白人労働者を元の生活に戻すためには、移民を規制することが必要と訴えました。それを没落した白人労働者が支持をしました。

その結果、排外主義を生み、マイノリティーに対して非寛容となる状況に世界が変化していきました。排外主義とは外国人や特定の集団を異質とみなして、感情的な嫌悪や敵意から、社会的に排除しようという思想のことです。排外主義は社会の多様性を否定して、人権を軽視する風潮には行き過ぎに注意が必要と思われます。

排外主義の傾向は日本に限ったことではありません。21世紀に入りヨーロッパでも右翼政党が台頭し反移民感情が高揚していることが報道されています。このような傾向は社会や経済的に置き去りにされた貧困にあえぐ人たちの怒りの表れという説明がされることがあります。

ヨーロッパも日本と同様に経済成長が伸び悩んでいます。その中で自国第一主義を掲げるポピュリズム政党も台頭しています。一時期台頭したグローバリズムの中で没落した中間層が苦しむ中で、移民排斥の機運が高まっているのが現状です。ドイツでもフランスでもイギリスでもそのような動きが顕著になっています。

4,民主主義の揺り戻しの歴史

各政党がポピュリズム政策を続け、経済がにっちもさっちもいかなくなったときに、一定の反動が起こり、歴史的に権威主義に戻る傾向が表れることがあります。21世紀前半の状況は自由貿易が拡大して、経済のグローバル化が進みました。そのグローバル化によって経済格差が起こり貧富の差が拡大しています。それが民主主義への不満となり、米国ではトランプ大統領を誕生させました。既存の政治体制に対する不信感を生み、強いリーダーシップを求める傾向が強まり、大衆迎合する主張が指示されるようになっているように思います。

その点でいえば、「民主主義の揺り戻し」と言われる現象が出ているようにも思えます。民主主義の浸透や定着の後に、権威主義やポピュリズムが台頭し、民主的な制度や価値が後退する現象のことです。その中で民主主義陣営が経済成長に苦しむなかで、権威主義的な傾向がある独裁政権が影響力を拡大していきます。「民主主義の呪い」という言葉がありますが、民主主義国が専制国より伸び悩む傾向の中で、大衆が民主主義を求めなくなる側面もあることが指摘されています。

民主主義の揺り戻しは歴史上たびたび起こっています。日本が文化的にも経済的にも成長していた大正時代、「大正モダン」という言葉がありました。西洋の近代的な文化や思想が取り入れられ、また、日本の伝統的な美意識や生活様式が融合した文化的民主的な傾向を謳歌した時代です。ところが1930年代から1940年代の世界ですが、世界恐慌後、経済的混乱と社会不安な中で、民主主義への不信感が高まりました。ドイツ、イタリア、日本は権威主義的な体制が台頭して、第二次世界大戦につながりました。

1990年代から2000年代にかけては、冷戦が終結し民主主義の勝利と言われた時期です。それにより一層のグローバル化や新自由主義経済が進みました。日本でも非正規雇用はこの時期に拡大していきました。それが結果として、経済成長の停滞や格差の拡大、西洋的な価値観への反発もあり、民主主義が揺らぎ始めました。そして2010年以降から民主主義の後退とも思える自由や人権の軽視、ポピュリズムの台頭、権威主義的なリーダーの登場が相次いでいます。経済的な安定や格差の是正に進まなければ、その傾向は一層強くなる可能性があります。

それらを踏まえてG2米中争覇から始めましたが、政治の在り方がまずます重要になってきているように思います。ポピュリズムの政策を進めすぎることで、国力は一層棄損します。日本の財政不健全が国際的信用を棄損して、国力を低下させる事態を避けなければなりません。長期金利が徐々に上がっていることは、日本国債を所有することはリスクがあると判断され始めているということです。日本は税収が足りない分を国債発行によって賄ってきました。しかし、国債が買われなくなり始めているため長期金利が上がっています。将来、あの時期に取った政策は間違いだったとの反省にならないように、この時期の判断は極めて重大だと思わざるを得ません。

以上