アジア各国での製造業の変化と日本の進むべき方向性

1, EV大国中国に続くベトナム

 EV(電気自動車)大国である中国は、BYDを筆頭に新興の企業も成長を続けています。2023年から中国が日本を追い越し、自動車輸出の世界一になっているともいわれます。ベトナムでもBYDの車を最近よく見るようになりました。EVは日本では高額なイメージがありますが、中国のEVは決して高くはなく、庶民にも比較的手に入れやすいと言います。過剰な競争もあり、値引き合戦も横行しており、大量生産が進み、その結果かなりた低価格での販売がされているようです。

 中国のEVの拡大には、中国デジタル産業の急拡大がセットで影響力を発揮していると思われます。自動車業界では、通信(Connected)、自動運転(Autonomous)、所有形態の変化(Shared & Services)、電動化(Electric)の頭文字を取ったCASEという言葉が使われており、自動車産業の変革期を表しているともいわれています。特にEVの分野で世界のトップに躍り出ているのが中国になります。EVの販売台数の三分の二が中国のメーカーのものと言われています。中国の強いところはソフトやAIなどの技術以上にコストを抑えた生産ができることが強みです。差別的な人件費や猛烈な働き方など中国独特の強みがあるようです。スウェーデンの有力な自動車だったボルボも中国企業に買収されたように、中国企業の成長が続いています。

 その影響もあり、ベトナムで最初の自動車メーカーのビンファスト(VinFast)は、大量にEVを生産するようになりました。この企業はまだ2017年に創業したばかりですが、ベトナム国内で圧倒的な販売台数を確保しています。生産台数を増やすために大量にタクシーとして使われるようになり、既存のタクシー会社の経営を揺るがす事態にもなっています。このタクシー会社の運転手は、急増の運転手が多く、道をあまり知らないとも言われていますが、時間の経過によって解決することでしょう。

 ベトナム政府はクリーンエネルギーにも力を入れており、ガソリンで動くバイクの市内中心部への乗り入れを禁止しようとの動きもあります。その点でベトナムで圧倒的なシェアを確保しているホンダやヤマハも厳しい戦いを余儀なくされるでしょう。ビンファストはEVだけでなく、電動バイクの生産にも力を入れており、ベトナム政府の政策に相まって、急成長していくことが予想されます。ビンファスト自体投資額が大きくて、まだ企業の収益が出ているわけではないとは言われますが、成長の軌道乗っていくことでしょう。

 それに対して日本は自動車が基幹の産業として、日本経済を引っ張ってきました。ところが経営再建を試みている日産は本田との合併が破談して、次の再建策を模索しています。すでに日産だけでなくホンダもBYDに世界販売では抜かれています。そのように日本の自動車産業もアジア諸国の自動車企業の成長の中で、以前のような圧倒的な力は見せられなくなっているのです。日本経済の厳しい実情を感じざるを得ません。

2, 日本を離れて感じる家電業界の衰退

 自動車産業の以前に世界市場から凋落しているのは、日本の家電産業と思われます。私は2008年からベトナムに来ていますが、その当時は日本の電機メーカーも元気でした。日立、ソニー、パナソニック、東芝、シャープ、富士通、三菱、今がもう存在しない企業ですが、パナソニックと合併して消滅した三洋電機の製品もたくさんありました。

 ところでベトナムの家電量販店に行っても、日本製品の数が極めて少なくなりました。パソコンの市場でも中国や台湾の製品ばかりです。米国の製品はありますが、日本企業の製品は一時に比べ極めて少なくなっており、アジアでは他の国に劣後しています。

 スマートフォンもそうです。以前私は、ベトナムでソニーのエクスペディアを購入していたのですが、店頭から消えてしまいました。仕方がないので今では、サムスンのギャラクシーを使うようになりました。PCも日本の適当なものがないので、中国のレノボのThinkPadを使うようになりました。それまではNECのもの、富士通のもの、東芝のダイナブックなどを使っていました。それが2011年にはNECのPC製造部門が、2017年富士通のPC製造部門が、2018年には東芝のDYNABOOKがレノボ傘下になっています。そのほかシャープも現在は台湾の鴻海精密工業(TSMC)の子会社になりました。

 ではなぜ日本の家電業界は衰退していったのでしょうか。代表的な要因があちこちで挙げられています。検索すると次のような要因が検索できます。

・デジタル化の対応の遅れ

 家電が「アナログ(機械部品)」から「デジタル(ソフトウェア)」に転換する 中、ハードウェアの品質追及に固執して、ソフトや通信のオープン化の流れに遅れました。

・中国・韓国メーカーの台頭と競争力の低下

 ハイアール(中国)やサムスン(韓国)などが、手ごろである「そこそこ使える」製品を市場に大量に供給し、市場のシェアを奪いました。日本製品はコストで勝てなくなりました。

・高機能化と高価格路線の失敗(ガラパゴス化)

 世界が「必要十分な機能と低価格」を求める中、日本メーカーは高機能、高品質を追求し続けました。結果、顧客ニーズに合わない「過剰なスペック」となり、割高な製品になりました。

・意思決定と開発スピードの遅さ

 組織の巨大化により意思決定が遅れ、変化の激しい海外市場のトレンドや消費者ニーズに迅速に対応できませんでした。

・「すり合わせ」から「モジュール化」への変化

 部品同士を精密に組み合わせる日本独特の「すり合わせ技術」よりも、汎用部品を組み合わせる「モジュール化・標準化」が主流となり、差別化が困難になりました。

デジタル革命により製品の変化が著しい中で、日本の家電業界が対応に遅れ、中国や韓国の新興勢力(中国のハイアール、ミデア、ハイセンス、グリー、韓国のサムスン、LGなど)に劣後していることが明白です。ハイセンスは東芝REGZAの事業を買収しました。パソコン製造のレノボは、IBMのPC製造事業を買収してから、NEC、富士通のPC製造、東芝のDynabookも傘下に収めています。中国企業に東芝はどんどん切り売りされています。

3, 中国の製造業はなぜ強いのか

 中国の製造業は15年連続世界1位の生産規模を誇り、圧倒的なコスト競争力があることが強さの秘訣です。2025年には「中国製造2025」という国策によるスマート化(AIやIoTの活用)を推進していることも理由です。豊富な資源と原材料、巨大な国内市場における過当競争も技術力と効率性への改善にもつながっているとのことです。

 昨年出されたみずほリサーチ&テクノロジーズのレポート「中国の製造業はなぜ強いのか (過当競争と規模の経済を磨く中国企業の競争力)」というレポートを参考に見ていこうと思います。中国の2024年の輸出は好調でした。輸出ドライブ(単価切り下げ輸出)による押上げがあったほか、トランプ関税を見据えた駆け込み需要もあったようですが、この好調さはそれだけで説明できないようです。中国には「何らかの要因」で競争力の向上が続いているとみています。

 中国ではこのところ機械類・電気機器で比較優位を有する品目が増加しています。一部には比較優位が劣後した分野もありますが、おおむね比較優位は拡大しているようです。工業製品の輸入依存度は低下し、自国内で調達も可能になってきているようです。

 それでは「何らかの要因」で競争力の向上が続いているのでしょうか。それらの要因に該当しそうなものを以下に箇条書きします。

・世界最大の「世界の工場」

 豊富な労働力と原料、サプライチェーンが集約された圧倒的な生産規模

・国策による産業高度化

 政府主導でAIやIoTを導入したスマート製造(中国製造2025)を推進

・激しい市場競争と進化

 国内の厳しい競争環境が、企業にスピード感のあるコスト削減とイノベーションを強制し、競争力を強化

・技術・ノウハウの吸収

 外国企業との合弁や技術移転を通じて技術レベルを向上

・EVなど新分野の台頭

 BYDをはじめとする新興メーカーが、政府の支援と低コストとなる構造を強みに世界シェアを拡大

 中国の国家資本主義ともいわれる産業政策の影響は大きいですが、見逃してはならないのが、中国市場での過当競争だそうです。その厳しさは、内部闘争で互いに疲弊してしまうことを意味する流行語「内巻(Neijuan)」で語られることもあるようです。中国の産業政策などを背景に、「市場の拡大と『ブームに殺到する企業』の組み合わせによって、一気に生産能力が拡大する現象」の存在が指摘され、これを「殺到する経済」と呼んでいるようです。いずれにせよ。これらの強みにより、労働集約型から、技術力を背景にした高付加価値な製造業へと急速に構造転換が進んでいるのです。

4,日本の製造業及び産業復活に必要なこと

 各製造業分野で凋落傾向を感じなる現状ではありますが、それでも日本は長年培ってきた技術力や品質の武器がなくなったわけではありません。きめ細かさを持った対応力によって、世界から日本の信頼性が失われてはいません。今でも高く評価されている産業は自動車産業でしょう。EVへのシフトが進む中でも、ハイブリット技術や走行性能の信頼性など、メイド・イン・ジャパンの信頼性は確立しています。

 電機メーカーの凋落の話をしましたが、最終製品では後れを取っているものの、東京エレクトロンやアドバンテストなどの半導体製造装置製造、信越化学。SUMCOなどの半導体材料、ファナック、安川電機などの産業用ロボット分野などでは、世界の工場で欠かせないものになっています。半導体装置では世界シェアの31%を占めています。半導体材料では高純度フッ素化水素、レジストなど、日本企業の製品が世界シェアの大半を握っている品目も多くあり、世界供給網に欠かせない存在です。産業用ロボットも自動化・省人化を求める世界の製造現場を支えています。

 また、ゲームやアニメなどのエンターテインメント・コンテンツは、日本特有の文化を背景にして世界中での人気を誇っています。さらに医療やヘルスケアでも高度な医療技術や高齢化社会の課題を解決するためのノウハウが集まっています。近年注目されているのは、日本の独自のホスピタリティー(おもてなし)が評価されており、日本旅行を規制している中国以外からの観光客が増えています。

 人口減少社会の到来から、AI活用による省力化が進みつつあります。それを逆手にAI活用できる分野は装置に任せた運営をすることで、異なる分野で成長する産業を支える視点がますます重要になっています。熊本にできるTSMC(鴻海精密工業)や北海道にできるラピタスのような半導体産業の再生への取り組みも急ピッチで進んでいます。デジタル技術やAIが社会に必要になっている中で、それらの再興は日本を支える産業になる可能性があります。また、それ以外でもエネルギー基盤を強化するためのGX(グリーン・トランスフォーメーション)の活用も必要になって来るでしょう。また、デジタル技術を活用した農業分野や医療分野など、人間に密着した産業への応用も今後成長できる産業のように思います。

 そのためには政府のかかわりも大きくなります。投資やンフラ構築などを進めること、海外企業の誘致や連携を進めること、地政学リスクを加味したサプライチェーンの再構築のため、製造業の国内回帰を推進することも必要かもしれません。それを実現するための欠かせないのが、人材の育成です。外国人を排斥するよりも、優秀な人材に選ばれる国になることも必要に思いますが、急激な円安が進む日本はその逆な方向に進んでいます。日本の現状は、日本人がやりたくない仕事を外国人に任せている状態ですが、それも今後は難しくなっていくように思われます。

 成長する分野をけん引する人材が必要になっていると思いますが、日本に一時帰国して思うことは、ベトナムと比べても活気をあまり感じられないことです。管理されることから逃れられず、疲れている人が多いのかもしれません。日本の今後にとって、スタートアップに取り組むなど活気のある人材の育成は必要です。革新的な技術開発を進めるために最も重要なのはやはり人材だと思います。

 日本が必要なのは高付加価値サービスへの転換と得意とする分野で新しい商品を開発するエネルギーです。既存の企業の安定も大事ですが、スタートアップ企業による新しい発想も重要です。米国でも中国でもこの30年の間にベンチャー企業が巨大産業に成長しました。明治維新から教育に力を入れてきたからこそ日本は成長しました。これからも人材の育成は重要です。従来からの大企業に頼っているだけでなく、新しい方向性を見つける人材がチャンスを捉えていくのでしょう。

以上