外国人労働者に依存する日本社会の現実(在留ベトナム人による犯罪の増加で知っておくべきこと)

1,日本に在留するベトナム人の犯罪増加

 私が毎月お送りしているメールマガジンの返信に、「日本でベトナム人の犯罪のニュースを聞くことが増えましたが、とても残念に思います。」と書かれているものがありました。確かにコロナ禍で事業不振の企業が技能実習生を解雇する、技能実習生が在留期間を過ぎても帰国できない、などの理由で通常の運営ができなくなりました。逆に新たに入国できる技能実習生もいなくなりました。

 出入国在留管理庁(法務省)では雇用を維持するために特定の産業分野における再就職の支援を行うとともに、一定の要件の下で、在留資格「特定活動」を付与して、雇用と滞在を一時的に可能にしました。本国への帰国ができない、または新型コロナウィルス感染症の影響に伴い自己の責めによらない事情による場合の特別措置です。在留活動の継続が困難となったことを理由として雇用維持支援での在留を希望する場合に、現有する在留資格の在留期限を令和4年11月1日までに満了する場合に限り、最大で1年間の在留を認める措置を取りました。

 コロナ禍は、多くの場合3年毎に循環していた技能実習生ですが、その循環が止まり滞留する外国人が増えていました。そのことも一部影響して、ベトナム人の不法なコミュニティーも形成されていったようです。最近読んだ『北関東「移民」アンダーグラウンド』(安田峰俊著)に詳しく載っています。その当時、北関東がベトナム人コミュニティーの形成が多かったようです。

 無免許でひき逃げ死亡事故を起こしたベトナム人、ウーバーイーツ配達員の日常、ブタ窃盗疑惑の「群馬県の兄貴」、「日暮里のユキ」が見た日本人の性と老い、殺し合うベトナム人同士、盗難車で鉄道事故を起こしたベトナム人、山梨県の桃窃盗事件などの数々の事件を取材したルポルタージュです。その当時報道されていた事件もたくさん含まれています。家畜の解体はベトナム人にとって日常的な作業でもあります。鶏やアヒルは生きた状態で市場で売られていますので、一般家庭で屠殺、解体は日常の作業です。また、果物は熟れてから食べることは少ないです。マンゴーも固く酸っぱいうちに食べてしまいますから、熟れていない固い桃がベトナム人には好かれるものと思います。

 特に転職が認められない技能実習生は、厳しい職場から仲間を頼って失踪したものや元留学生がオーバーステイして、不法滞在や不法就労した人たちの一部がそのような事件に巻き込まれているようです。日本人が希望しない業務の人集めに使われたベトナム人が矛盾の吹き溜まりになっているのです。

 日本人は移民に抵抗感を持っている人が多いと思います。そのため移民という言葉を使わず、日本で技術を実習して発展途上の母国の発展のために、その技術を生かすための国際貢献という建前でできた制度です。現実をカモフラージュした制度と言わざるを得ません。日本は少子高齢化とデフレ経済が続いていたため、安価な労働力が必要でした。そのため名目を「実習」とした制度や留学を建前としてアルバイト形式で就労する偽装留学生に頼っていたのです。このような目的で日本に入国したベトナム人の犯罪が増えているのは、ベトナム人だけのせいとは言えない側面もあります。

2,海外に派遣されるベトナム人労働者たち

 JETROによると2022年10月末現在で、日本に滞在する外国人労働者の総数は182万に上りますが、その中でベトナム人が最も多く46万人となっています。ベトナムの2023年6月のニュース記事によると、海外で働いているベトナム人は71万人いるようです。半分以上が日本で働いていることになります。もはやベトナム人がいないと成り立たない産業が日本では存在するということでしょう。

 そのニュースで取り上げられていたのは、海外で働いている労働者の中で46,000人が不法就労の状態であるとしています。ベトナム労働傷病兵社会問題省(以下、「労働省」という)が国会の質問に答える形で明らかにされています。不法滞在とは契約に違反して本来の就労先から逃げ出して、在留許可の根拠がない人たちの日本での滞在を指します。

 ベトナム人の逃亡率が最も高いのは韓国とのことで、労働者の26%に当たる12,200人に上るとされています。また、逃亡者の実数が多いのは台湾で24,000人に上り、派遣された労働者の9%になるとしています。日本では4,700人が逃亡、中東・アフリカ諸国で1,300人、欧州諸国で600人と報告されました。

 逃亡して不法滞在する理由は、外国でより長い期間を働き高収入を得るためにベトナム人などのブローカーに誘われて逃亡するケース、2020年から2023年までのコロナ禍では契約期間満了でも帰国することができず、そのまま逃げて働いているものも多くなったとしています。

 それらの逃亡したベトナム人は不法就労だけでなく、一部は窃盗、酒の密造、賭博などの違法行為に手を出す人もいるとしています。そのことが外国におけるベトナム人労働者のイメージに悪影響を及ぼしているとみて、ベトナム労働省は対策を講じようとしています。労働者の対する法律の広報強化、逃亡者が多い派遣会社の許可の取り消し、出国前の保証金の預託の凍結、逃亡率の高い地方の新規採用凍結などの対策を打っていくとしています。不法滞在するベトナム人の問題は母国でも問題になり始めています。

3,ベトナム人材はなぜ日本に来るのか?

 来日するベトナム人が増えている中で犯罪も増加していますが、ベトナム人はなぜ日本に来ようと思うのでしょうか?ここではベトナム人の一般的な考え方をお伝えします。

 ベトナム人の生活上で日本製品はかけがえのないものが多いです。特にベトナム人の足になっているのはバイクです。ベトナムではホンダ、ヤマハのバイクが他のメーカーのバイクを席巻しています。以前はベトナムではバイクのことをXE(読みは「セ」 車のこと)HONDAと呼ばれるほどでした。バイクは日常生活で最も大事な道具ですので、品質の高い日本製が好まれています。そのことは日本へのあこがれにもなっています。ただ、最近では電話製品に関しては価格の高い日本製品ではなく、価格が相対的に低い韓国、中国、欧州のメーカーのものが増えているように見えます。日本のあこがれも逓減傾向にはあるようにも感じます。

 それ以外にも要因があります。ベトナム都市部では都市鉄道の工事、国際空港の工事、高速道路の建設などがあちこちで行われています。その工事現場では日本の政府開発援助ODA(Official Development Assistance)の表示があります。日本政府がベトナムの発展に力を貸していることが目に見えるようになっています。ベトナム人から見ると日本はベトナムを助けてくれる国との印象が強いのでしょう。

 ベトナムの若者に人気なのは、アイドルや音楽では韓国系に圧倒されていますが、漫画・アニメに関しては日本の作品が圧倒的に人気です。ドラエもん、コナン、ドラゴンボール、ワンピースなど、それを見て育った若者は日本を支持しています。そのようにベトナム人の多くは親日的な感情を持っているのです。

 そのような若者たちが技術力の高い先進国の日本に行けば、技術や知識を得て自分の成長に活かせると思うことは不思議ではありません。また、ベトナムに進出している日本企業は労働環境や福利厚生にも気を使っています。それにより日本の企業は労働者からも信頼されています。また、多くのベトナム国内での労働者の給与水準は、異常な円安とはいうものの日本円で月給が4~5万円程度の状態です。そのことも日本にあこがれる要因になっています。

 ただ、ベトナム社会は大きな変化をしています。オフショア開発のIT人材が豊富なベトナムでは変化が続いています。5年の経験を積めば20万円程度の給与に上昇する人も多くなりました。プロジェクトを管理するリーダーは日本の同様の業務と変わらない収入を得ています。そのような立場にある人は、わざわざ日本に行く選択肢はないようです。

 最近の傾向は、大都市部から日本に行こうとする技能実習生は少なくなってしまいました。農業くらいしか仕事がない地方に住むベトナムの若者が、親族を楽にしてあげようとブローカーに誘われて技能実習生になっています。都市部の若者はわざわざ日本に行こうとはしません。何も知らない田舎の若者が、日本に行くと将来幸せになれると諭されて日本に派遣されているのです。そのような若者が日本に行って現実を知り、その中の一部のベトナム人の不法滞在者に導かれるようにして犯罪に手を染めています。夢を抱いていたベトナム人が屈折していく現実も日本人は知っておくべきでしょう。

4,技能実習制度・特定技能制度の今後の展望

 このように問題が多い技能実習生制度や留学生制度ですが、国連の人権理事会では日本の技能実習生を含む外国人労働者や移民労働者の労働条件の改善や人権侵害を防止するよう求められることもありました。もはや改革は待ったなしになっています。2022年(令和4年)からは、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の議論も始まっています。

 その有識者会議の中間報告が2023年(令和5年)5月に出されています。その中間報告の概要を見ていきましょう。技能実習生制度がなぜ再検討が必要になっているかを述べています。「我が国の人手不足が深刻になる中で、外国人が日本の経済社会の担い手になっていること」、「外国人との共生社会の実現が社会のあるべき姿である」としています。そのうえで「人権に配慮しつつ、我が国の産業並びに地域社会を共に支える一員として外国人の適正な受け入れを図ることにより、日本で働く外国人が能力を最大限に発揮できる多様性に富んだ活力ある社会を実現し、深刻な人手不足を緩和する」ことの必要性を伝えています。そのために改革が必要な理由として、「このような観点から技能実習制度と特定技能制度が直面する課題を解決したうえで、国際社会にも理解が得られる制度を目指す」としています。

 必要な改革の論点を見ていきますが、まずは技能実習制度の廃止の検討と合わせて、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討するとしていますが、特定技能制度を活用して問題点を解消していこうとの考えが見えます。まずは、改革が必要とされる論点については6つにまとめています。

1)制度目的と実態を踏まえた制度の在り方

人材育成を通じた国際貢献 → 技能実習生制度を廃止して、人材確保と育成を目的とする新たな制度の検討。特定技能制度は制度の適正化を図り指導監督体制や支援体制の整備を検討する。

2)外国人が成長しつつ、中長期的に活躍できる制度の構築

職種が特定技能の分野と不一致 → 新たな制度と特定技能制度の対象職種を一致させる。現行制度の職種や分野の設定を再検討

3)受入れ見込数の設定等の在り方

受入れ見込数の設定のプロセスが不透明 → 所管省庁による現状の確認や受入れ見込数の設定。関係者の意見やエビデンスにより判断する仕組みを作る。

4)転職の在り方(技能実習)

原則不可 → 人材育成に由来する転籍制限は残しつつも、制度目的に人材確保を位置付けることから、制度趣旨と外国人の保護の観点から緩和する。

5)管理監督や支援体制の在り方

管理団体、登録支援機関、技能実習機構の指導監督や支援の体制面で不十分な面がある。悪質な送り出し機関が存在 → 管理団体や登録支援機関が担っている機能は重要。他方、人権侵害等を防止是正できない機関を適正化、あるいは排除する必要あり。管理団体等の要件の厳格化。悪質な送出し機関の排除を二国間の取り決めなどを強化する。

6)外国人の日本語能力の向上に向けた取り組み

本人の能力や教育水準の定めなし → 日本語能力確保のため就労開始前の日本語能力の担保方策及び来日後の日本語能力向上の仕組みを設ける。

 このような議論を進めたうえで、2023年(令和5年)秋をめどに最終報告を取りまとめるとしています。現在特定技能制度の12職種に関しては、以下の職種に限定されていますが、どのような職種が追加拡大されるかの報は今の段階ではわかりません。現状の12職種とは次の通りです。

 介護分野、ビルクリーニング分野、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野、建設分野、造船・舶用工業分野、自動車整備分野、航空分野、宿泊分野、農業分野、漁業分野、飲食料品製造業分野、外食業分野が認められている業種です。

5,人手不足の産業は外国人に頼らざるを得ない厳しい現実

 技能実習制度の「特定技能」への統合等が検討されている中で、「特定技能」への追加職種として、人手不足が顕著なトラック、バス、タクシーのドライバーについて外国人を活用する検討に入ったとするニュースが、9月12日に配信されています。「特定技能」の追加業務に「自動車運送業」を追加する方向で、国土交通省は出入国在留管理局と協議に入っているようです。2024年4月からは残業時間の上限が年間960時間に規制されることもあり、人手不足が加速され、需要に合わせて人やモノを運べなくなる「2024年問題」が懸念されていました。

 このような検討がされる背景には、ドライバーのなり手がいない現実があります。若い世代はコロナ禍の在宅勤務の経験から、毎日出勤する業務が敬遠されるようになりました。コロナ禍はそれ以外にも運転手の減少に影響を与えました。運転手の高齢化が進んだ中で、コロナ感染を恐れた高齢運転手が大量に退職する事態も起こっていたようです。また、高齢者が健康問題を抱えて運転することのリスクも否定できません。運転手が意識を失い事故が発生した事例も増えています。過酷な運転業務を高齢者に依存するのは限界が近づいているのでしょう。

 日本は農業漁業なども外国人に頼っており、また物流にも外国人に頼らざるを得ない局面になってしまったことに驚きを感じます。しかしながら、運転手は簡単に外国人には置き換わることができない要因があります。それは運転免許証が必要だからです。運転免許は通常試験が日本語で行われます。外国人が日本語を習得するためにより一層の時間がかかります。言語の壁以外にも、ベトナムで生活している私には安全意識が国や民族によって違うことも感じます。ベトナムの道路交通事情を見たことがある人はわかるでしょう。

 このような日本の現実に直面する中で、AIを活用したビジネス転換が必要になってきているように思います。パターン化できる仕事がAIの得意な分野だといわれます。自動車運送業がパターン化できるかどうかも難しいところがありますが、せざるを得ない地点に来ているように思います。世界のどこよりも進んだ高齢社会の日本は、現在の経済を守るためにもAIの研究を進めることが求められています。その成果によって次の日本経済の再興につながる可能性もあります。日本の問題点に対する真剣な取り組みが、日本の成長産業を育てるきっかけになるかもしれません。

以上

投稿者プロフィール

西田 俊哉
西田 俊哉
アイクラフトJPNベトナム株式会社・代表取締役社長。
大手生命保険会社に23年の勤務を経て、2005年に仲間とベンチャーキャピタル・IPO支援事業の会社を創業し、2007年に初渡越。現在は会社設立、市場調査、不動産仲介、会計・税務支援などを展開。