一時帰国で思う割安日本の現実

 2021年9月15日

1、日本への一時帰国と自宅待機14日間

8月28日早朝に羽田に到着便で1年半ぶりに日本に帰国しました。帰国前72時間前にPCR検査を行い、陰性証明書を取得して、日本に入国することができました。入国時は1時間半ほど入国の手続きと待機期間中報告が義務付けられている健康確認や所在報告のためのアプリのインストールと入国時のPCR検査を行いました。まだ多くの国からの入国者は一定の待機期間を検疫所の指定場所で過ごさなければなりません。しかし、ベトナムからの帰国者は幸いにして、検疫所長が指定する待機場所で数日間の待機の必要がなくなったので、その日のうちに自宅に移動することができました。私は自宅待機が可能でしたが、空港から遠方の人はホテルなどでの待機を余儀なくされます。

ようやく入国の手続きが完了後、在外邦人向けに羽田空港に設置されたワクチン接種会場で第一回のワクチン接種をしました。その後は公共交通機関での移動が認められていないので、横浜市に住む家族に迎えに来てもらいました。羽田着にしたのも土曜日の帰国にしたのも迎えに来てもらうため家族の都合で決めました。

自宅についてからは、アプリを起動させて自分の居場所を報告し、健康報告が義務付けられています。外に絶対出てはいけないわけではありませんが、出るといっても歩いて食材の買い物に出かける程度です。公共交通機関を使うことはできないので、近場で買い物をしながら健康のためについでにウォーキングをしている程度です。

そのような生活をしながら感じたことは日本ではモノの値段が安いということです。ベトナムでの食生活のため食材などを買うのですが、外国人向けの店で買うことも理由ですが、多くの品物は日本より高いです。例えば、3箱入りの納豆を買うと400円程度にはなってしまいます。黒霧島などの焼酎を買うと3000円以上にもなります。輸入する製品は関税がかかることもありますが、慣れた食材でないと口に合わないので日本でよく食べていたものを買うことも多いです。それに比べると日本のスーパーマーケットの値段は圧倒的に安いのでたくさん買ってしまいます。

ちょうど帰国した時に羽田空港の売店で週刊ダイヤモンドという経済誌を買いましたが、その特集記事が、「安すぎ日本 沈む給料 買われる企業」という特集記事が出ていました。スーパーマーケットに入ってそれを実感しました。

2、海外が狙う割安な日本企業

海外にいると以前の活躍していた日本企業が新興勢力に駆逐されつつあることを感

じます。スマートフォンの販売専門店はベトナムにもたくさんありますが、以前は置かれていたSONYのエクスぺリアは消えていました。商品として置かれているのは中国企業の製品、韓国企業、ベトナム企業の製品です。

 2010年以降、日本企業が外資企業にどんどん買われています。ベトナムでは家電販売で人気があった三洋電機が中国のハイアールグループに2011年に買収されています。ベトナムの市場では中国企業だとすぐわかるハイアールという商標は使わず、三洋の製品の名まえであったAQUAという会社名を使い、あたかも日本企業のような印象を与えていますが、完全に中国企業です。

 また、シャープは、台湾企業のホンハイ精密工業に買収されました。その他PCの製造をしていた東芝のダイナブックは外資のファンドに買われました。同じようにSONYのVAIOも外資ファンドに買われています。東芝の白物家電部門も中国「美的集団(ハイセンス)」に買われ、パイオニアも2019年アジア系のファンドが買収しました。東芝本体は2021年4月に英国の投資ファンドに2兆円超の金額で買収提案を受けました。買収される企業の電機メーカーが多いですが、今後の展開では自動車など日本の製造業の中心を担っている産業もターゲットにならないという保証はありません。

 なぜそのようなことが起こるかというと日本企業の時価総額がかなり下がっていることがあります。株価純資産倍率(PBR)という指標がありますが、これは企業の純資産に対して株価が適切かを示す指標です。PBR(株価純資産倍率)は、株価を1株あたりの純資産額(自己資本)で割って求めます。たとえば、株価が1000円で、一株あたりの純資産が800円の会社なら、PBRは1.25倍(1000円 ÷ 800円)となります。純資産とは、総資産から負債を除いた額になります。

日本企業は株価が純資産を下回っている企業が多いようです。それに対してアップルは38倍、テスラは28倍、アマゾンは19倍というように断然違います。このように株価が純資産以下になっている企業はお買い得と思われるのです。なぜ日本企業は、米国企業や他の国の企業より低いかというと将来の成長性が低いとみられているからでしょう。なぜ、このようなことになるのでしょうか。

大手企業の外資の買収のケースを見てきましたが、中堅企業もアジア企業に盛んに買われています。群馬県太田市のオギハラは中国企業BYDに買収されています。中国の投資ファンドは日本の特殊技術を持った優良企業を多数買収しています。埼玉県のレンズ加工のモリテックス、川崎市のスイッチ製造の神明電機なども買収されています。

企業買収以外にもパウダースノーで有名な北海道のニセコが外国人投資家に買われて不動産価格が高騰しています。雪質が良く、滞在費が安いと言うのが人気の理由です。ニセコのスキー場やホテルは、西武が米国の金融大手シティーグループに売却、また、マレーシアのYTLグループがニセコビレッジを運営しています。またホテル大手のマリオット・グループもニセコに高級ホテルをオープンしています。外国人に人気の場所はどんどん外国企業が投資しています。それも相対的に日本の不動産が買い得に思われる価格だからなのでしょう。

3、昇給ゼロ社会の日本の現実

 週刊ダイヤモンドによると2000年から2020年平均賃金の上昇率をG7(米国、カナダ、ドイツ、英国、フランス、イタリア、日本)と韓国を比較すると、日本の上昇率は、20年間でたったの0.4%の上昇にとどまっているようです。それに対して、米国25.3%、カナダ25.5%、ドイツは17.9%、韓国は43.5%も上昇しています。今や韓国よりも平均賃金が低くなっているとこの記事は伝えています。日本以外の国では、賃金は毎年上がることが当たり前ですが、日本だけは毎年変わらないのが当たり前になってしまっています。

この雑誌の中でデビット・アトキンソン氏は、賃金が低いと企業は投資をしなくなると言っています。逆に賃金が上がって人のコストが高くなると企業は投資をするようになると言っています。人のコストが安いと不良品が出ても人手をかけて作り直せばいいが、人のコストが高いと不良品を防ぐために品質管理を行い、設備投資が起こり、技術の進歩が得られると言っています。

日本では賃金が上がらない大きな要因は、雇用の二極化にあります。正規労働者と非正規労働者の二極化です。この間企業はコスト削減をして、競争力を維持することに躍起になってきました。経営者は生産性の上昇ではなくコスト削減で何とか乗り切ろうと考えるようになりました。正規労働者を削減して、非正規労働者を使うことで何とかコストカットをして競争力を維持している現状です。企業は新たな投資をするのではなく、安易に低賃金の労働力を使うことに流れているようです。賃金を抑えることで消費は増えないので売り上げはさらに減少する。そうなるとさらに賃金を下げようとする。その悪循環に入ってしまいます。

 日本に戻ってくるとスーパーでもレストランでも接客サービスの品質も断然高いと思いますが、多くの人は非正規雇用で安い賃金で働いています。もっとコストダウンを図るため外国人のアルバイトも使うようになっています。だから商品の価格もサービスの価格も安いのでしょう。日本人はあまり文句を言わないので、安い賃金でも一生懸命に働き続けています。他の国は賃金が上昇して、日本はほとんど増えないのかそろそろ真剣に考える必要が出てきていると思います。

4、利潤追求の資本主義システムが限界をもたらす

企業が外資に買収されたり、賃金が増えない日本のマイナス面を見てきましたが、日本以外はうまくいっているのでしょうか?私が仕事をしているベトナムの事情をお伝えします。ベトナムの政治体制は社会主義ですが、経済は資本主義を取り入れています。投資をして利潤を増やすことに多くの人たちが関心を持っています。

ベトナムのリーディングカンパニーは、政府の利権に入り込んで、新しい投資先の認可を取得します。不動産開発、自動車製造、スマートフォン製造などの事業分野は、ビングループが外資の技術者を転職させたり、買収しながら事業開発をしています。特に経済成長が加速しているベトナムですので、不動産開発には多くの資本が参入しています。また航空会社の新規参入も増えており、ベトナム国内の航空会社が6社まで増えています。ベトナムも日本同様に縦に長い国ですので、移動は飛行機を使うことが多いです。また、まだまだ貧しい人も多いですが、急激にお金持ちも増えているので、不動産投資も盛んです。お金持ちは何件もマンションを買って、外国人に貸して利益を上げています。ベトナムは所得税の徴収がザルになっているところがあるので、お金持ちはますますお金持ちになる構図です。急激にお金持ちになっている人たちの特徴は、大都市部に不動産を持っている人たちです。急激な経済成長に伴い、大都市部の不動産価格が大きく上がったからです。

一方、田舎の貧しい人たちは海外で働いてお金を得ようとしています。ただ、それもブローカーが借金を背負わせて、海外に派遣しているケースが多い現実があります。日本にも多数来ている技能実習生は多額の借金を背負って日本に来ているケースが多いです。ただ、現実は過酷な労働と人権が無視されるような労働環境の中で失踪する実習生も増えているようです。ベトナムの貧しい人たちはブローカーの利益追求の道具にされている現実があります。

ベトナムは社会主義ですが、富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しくなる典型的な資本主義の悪い面も現れてきているようにも感じます。しかし、コロナ禍はこの局面を大きく変えるかもしれません。外国人が入国を制限されていることも影響して、マンションの賃料は大幅に下がっています。不動産を持っていれば利益を上げられるようにはならなくなりました。また、航空会社も運航が制限されていますので経営が厳しくなっています。技能実習生も新しい実習生を送れなくなり、帰国できない期限が満了した実習生が延長して働いている現実があります。実習生の送り出し機関も従来の収益構造を維持できなくなっています。アフターコロナでは今までのビジネスの構造が変わるように思えます。

5、日本は安くて魅力的な国になれる

ベトナムの社会が意外と拝金主義的な側面があることを見てきました。お金がお金を生むという社会が極端になると有利な投資先に利権を得て見つけようとすることになります。それは政治権力と癒着が進むことになるでしょう。そんななかで日本の賃金が上がらないという現象はマイナスばかりではないかもしれません。

まずは、給料が増えない日本ですが、以前と違い外国の都市に比べて物価は安くなっています。日本に戻って感じるのは生活しやすいことです。治安が良く、清潔で、風景もきれいで、モノが安いのが日本です。コロナが終息して観光客が戻ってくると日本には外国人観光客が増えると思います。

以前、日本の住居は狭く「うさぎ小屋」という悪口を言われた時期がありますが、ベトナムの大都市のマンションの価格と大きくは違わなくなっています。品質を比べれば圧倒的に日本のマンションの方がいいと思います。多くの国で不動産価格が上がっていることもあり、相対的には日本の不動産を外国人が買うことも増えています。日本の不動産を外国人が買うようになっていることは有利な投資先とみているからです。

企業が買収され、賃金の上昇もほとんどない国ですが、買収されると言うことは、それだけの潜在的な価値があるからです。また、物価の安い国は生活もしやすく、旅行者にも人気が出ると思います。こんな日本だからこそ、日本の価値が多くの人に認められれば、今後の局面で価格を上げていくことは可能だと思います。需要があればそれにつれて価格を上げることが可能です。特に製造業では人件費の安い新興国への工場移転が行われていますが、サービス業の品質は日本のレベルは高いと思います。諸外国を見ても、日本ほどサービスが充実した国は少ないと思います。東京オリンピック、パラリンピックも無観客で採算を度返しして開催されました。世界との約束を守るまじめな国日本の体現している事実です。

地球温暖化、食料不足、環境破壊、異常気象など行き過ぎた競争の中で、新しい価値観が台頭しようとしています。そんな中で世界でも類を見ないほど低成長の国となった日本が新たな価値観を持った国になるチャンスはあるのではないかと思います。資本主義国も社会主義国も貧富の差が拡大する中で、日本は非正規労働になった人たちを正規労働者に復帰させられるような対策が取れたら、世界の他の国に比較しても住みやすく、希望の持てる社会になるのではと思っています。非正規労働者の正規労働の復帰とは自分のやる気と能力を活かせる環境の整備や時代に合わせた教育の整備なのかもしれません。そのことに力を入れることが必要な社会になっているように思います。アフターコロナは雇用の流動化を生み、非正規労働の解消のきっかけを作れたら、日本の再浮上の可能性があるのではと思います。

以上

投稿者プロフィール

西田 俊哉
西田 俊哉
アイクラフトJPNベトナム株式会社・代表取締役社長。
大手生命保険会社に23年の勤務を経て、2005年に仲間とベンチャーキャピタル・IPO支援事業の会社を創業し、2007年に初渡越。現在は会社設立、市場調査、不動産仲介、会計・税務支援などを展開。